夜霧はアスファルトの上までおりて来ている。

靄の隙（すき）から市の汚水（おすい）処分場が見え出した。

夜は暗く霧は重く、はてのない沼のよう

薄靄（うすもや）を生海苔（なまのり）のように町の空に引き伸して高い星を明滅させている暖かい東南風が一吹き強く頬（ほお）に感ずる

牛乳のような色の寒い夕靄

いつまでもこの静けさの中に浸っていると、蜜蜂の羽音が聞こえてきそうな気がした。最初は雨に包まれぼやけていたその音が、蜂に目を凝らしているうちに段々鮮やかな輪郭を持ちはじめ、耳に入り込んできた。そのままじっとしていると、羽音はしなやかな液体のように耳の奥の小さな管にまで染みとおっていくのだった。

びしょびしょの人魚のようにべったり 濡れたさせ子が重そうな足取りで浜に上がってきて

雨に煙り、並木の黒い塊が、如何にも外国の絵でも見るように、新鮮だった。

時々車のワイパーを動かし、しばらく止め、また動かした。その程度の雨だった。

か細い糸のような雨が窓を伝う