夜気はこまやかに森（しん）として、遠くごく遠く波の音もする。夜、波の音は何故あのように闇にこもるように響くのだろう。

太平洋の荒い波だ。多くの魂が集まって、銘々の物語を囁きあっているような、太く暗い響きがそこにはあった。その集まりは更に多くの魂の参加を求めているようだった。

永遠のありかたを静かに示しているように、波の音が単調に反覆を繰り返す

（海鳴り）闇のなかで聞えたあの暗い太鼓のような波の音。

海はいつも予想の二〇％ くらい大きいから。そうとうの大きさを予測して見に行くと、更にその二〇％ 大きい。もっと大きいと思って行っても、そのかくごの二〇％ 大きい。一面の波で心をいっぱいにしていっても、小さなビーチを想像していっても、やっぱり二〇％。 　こういうのを無限っていうのか。《…略…》波音は人をすこし不安にする。常に二〇％ 広い風景を前にしていると、心もとない。 　そのことは私をおかしな中庸に導いた。 　空と海が交わるあの奇跡の直線にシンクロして、どこまでも平らになってしまったというか。 　何とも静かでクリアーだった。

水を打ったような静けさがいまこの谿を領していた。何も動かず何も聴こえないのである。その静けさはひょっと夢かと思うような谿の眺めになおさら夢のような感じを与えていた。

静かというにはおそろしすぎる底なしの無音の世界

旗がばたばたと風に煽られて音を立てる

（指揮者）クラウディオ・アバドはロンドン交響楽団をその音楽的ピークに持ちあげようとしていた

黒い小さい機械（電話）が、いきばって身を震わせ、喚（わめ）き立てているように感じた。

秋の陽光に煌く湖

鱗のように照り映えながら、川水は　縞をなした岸辺の岩を洗いつづけた。

薄い霧が森の奥からにじみ出るように湖岸の道に漂う

岩がちの海岸からところどころに魚の背鰭のようにぎざぎざな岩礁が沖のほうまでつきでて

町の人々がストレス発散のためにつばを吐いたり紙を散らして汚したりもする、都会の川だ。