焼け残りの庭木が五本か六本、半焦げで、掌みたいな変な具合に葉を茂らせてゐる。

部落にかけられた火は一角だけではなく、周りの藁屋根に燃えうつり、赤黒い炎が靄のなかで、まるで生きもののように動いていました。それなのにひどく静かでした。まるで部落とそこに住む百姓たちが、黙々とこの苦しみを受けいれているかのようでした。

すずかけもすっかり芽ぶき、緑の美しい若葉が、火事の焔でゼラチンのように透けてみえた。

屋台骨が火の中へ、紙細工のようにヒラヒラと呑まれて消える

野原に大きなまっ赤な火が燃（もや）され、その黒いけむりは高く桔梗（ききょう）いろのつめたそうな天をも焦（こ）がしそうでした。ルビーよりも赤くすきとおり、リチウムよりもうつくしく酔（よ）ったようになって、その火は燃（も）えているのでした。

袂（たもと）が触れて、そばの紅蝋燭（べにろうそく）が火のついたまま部屋の中へ転がり落ちた。

家宅捜索に乗り込むように、車内を探りはじめた。　ミミズに大量の蟻がどっと纏わりつき、一気に解体するかのような、手際の良さとおぞましさ、問答無用の強い力を感じる。

札幌駅の河西も、東京駅の女中も、安田に作られた目撃者である。安田自身がこの情死事件には不在であるという証明のためにである。 　札幌、東京の二つの駅でおこなわれた安田の作為の行末は、交差の点を九州博多の近郊香椎に結んでいる。すべて彼がそこにいなかった、という結像である。 　ここまで考えてきて、三原は、安田辰郎がかならずそこにいたという自信を強めた。作為が加わっている以上、その結像は虚像である。実像は反対に転倒している。《…略…》彼は事件に不在どころか、確固として存在していたのだ。安田の努力を検討すると、この実像を反対に結像して見せることに指向している。

もうそこまで、炎の舌が這ってきた。

三車線の第三京浜が一晩中通行止になるほどの大事故だった。

イカが吐き出した墨のような黒煙

灰と化したばかりの紙片が、千切れた黒蝶の羽のように舞い上がる

もうそこまで、炎の舌が這ってきた。

太い火柱の影が、月の空へ突きとおって見えた。

竈（かまど）には火が暖かい光を放って水飴（みずあめ）のようにやわらかく撓（しな）いながら燃えている。