濃厚な匂いのエッセンスが部屋を漂っている

甘々しい香りが蜜のように濃く立ち込める

香りがあたりに揺動する

あたりの空気が噎（む）せるほど高雅な香りに満ちる

（雨の店内）安酒のにおい、汗のにおい、食料脂のにおい、――、そういうものが雨で立籠められたうえ、靴の底から蹴上げられる埃と煙草の煙に混（まじ）り合って部屋の中の空気を重く濁した。

（部屋は）ごみ箱のような匂いがする。

穏やかな匂いにほだされる

ポットを火にかけた。とても濃密なジャスミン茶の香りが部屋に満ちる。 　今があって、過去があって、ある雨の朝、私が私とここにいる。そういう感じのおちつきはらった、沈み込むような甘い香りだった。

そのかすかなにおいがようやく葉子をはっきりした意識に返らした。

風にのって彼の顔に近づいてくる何か物の腐敗した匂いが、彼の嗅覚にはたらきかけて、彼を把とらえているのだった。