どこか都慣れたところがあった。

木村の容貌（ようぼう）はしばらくの間に見違えるほど refine されて、元から白かったその皮膚は何か特殊な洗料で底光りのするほどみがきがかけられて、日本人とは思えぬまでなめらかなのに、油できれいに分けた濃い黒髪は、西洋人の金髪にはまた見られぬような趣のある対照をその白皙（はくせき）の皮膚に与えて、カラーとネクタイの関係にも人に気のつかぬ凝りかたを見せていた。

もともと、魅力的な体を持った黒人だと思ったが、野卑なようすは隠せなかった。が、今はそれが完全に消されて、洗練された香りが、黙っていても滲み出て来る。熱く煮えたぎった激しさを知性で上手に包み込んでいるといった雰囲気が漂っている。そのスマートな容姿に魅かれて近づいた女は彼の衣服の陰から見え隠れする 獰猛 さと、すさまじいほどの性的なニュアンスに度肝を抜かれる

しばらく見ないうちに青くささがすっかり消えて、なかなかの貫禄を身につけている。

小池くんは、存在感の質自体が変わっていて、大学生のころから着けていた、酔っぱらうとほかの部員に隙あらば取られそうになっていたデイトナが、いまも彼の腕に巻かれていたが、あんなに浮いていたのに今は目につかないくらい彼に馴染んでいた。

人いきれで汗ばむほど込み合う

雨風のために夜はにぎやかな往来もさすがに人通りが絶え絶（だ）えだった。

子どもたちが、アリが餌を運ぶようにぞろぞろ坂をのぼってくる

差し出された名刺で、黒崎俊一という名を知った。姓も名も、字のかたちも、音の響きも十和子には好ましかった。黒崎俊一という姓名に、逆らい難い特別な啓示が秘められているような気さえしたのだ。

池本は答える前に、運ばれてきたアイスコーヒーをこれまた一気飲みした。口元からたらたらとこぼれるのを手で拭う。壊れかかったような危うさがこの人にはある。