崖から転がり落ちるみたいに過ぎていく時間

煙草が半分燃え尽きるほどの時間しかかからなかった

魔法使いの馬車が現れたような早さでタクシーが来る

夏という季節はいつも、忙しく、せっかちで、こちらが油断している間にするすると走り去ってしまうのだ。夏だけじゃなくて、夏ほどじゃないけれど、他の季節もみんな速足だ。ゆっくりとのんびりとあたしたちと一緒に歩いたりはしてくれない。 　それは十八歳というあたしたちの年齢と関係あるのだろうか。それとも幾つになっても、季節はそっけなく近づいてきたと思ったら、あっという間に背を向けて遠ざかっていくものなのだろうか。今のあたしにとって、季節はこんなにも早熟で、あまりにも早く老いていく。

くすぶった焼けぼっくいが燃え盛るようにすぐ

あっけないほどあっという間

（両手を）到来の棒鱈（ぼうだら）のように手持無沙汰にぶら下げている

悲痛さは、日々そのかたちが曖昧になって、少しずつ、音もなく崩れていっているように感じられた。時の流れの中に 零れ落ちていって、少なくとも心は軽くなってゆきつつある。そのお陰で、自分が危機から遠ざかりつつある安堵を覚えてはいたが、死の直後の恐ろしい寂しさとはまた違った、ゆっくりと染み入るような寂しさを、時折、からだの深い奥で感じた。

（暇なので手紙を書く）透明にしんとした時間が、ペンの音と共に一滴一滴落ちてゆく。

１日の密度が濃くて、行く夏が悲しくて、 18 くらいの夏みたいだった。