旅館の中庭に、萩が絵のように咲き乱れていた。

宿泊客の目に触れにくいように、フロアのいちばん端の奥まったところにある従業員用のエレベーター

ホテルのロビーは酒に酔った集団の喧騒で埋め尽くされている

（ホテルのカードキー）左手で持った鍵を、ドアノブの下にある平たい隙間へ挿入した。すぐに引き抜くと、小さなランプが点灯し、金具が外れる音がした。

（ホテル・オークラ）本館のロビーは広々として天井が高く、ほの暗く、巨大で上品な洞窟を思わせた。ソファに腰をおろして何ごとかを語り合う人々の声は、臓腑を抜かれた生き物のため息のようにうつろに響いた。カーペットは厚く柔らかく、極北の島の太古の苔を思わせた。それは人々の足音を、蓄積された時間の中に吸収していった。ロビーを行き来する男女は、何かしらの呪いで大昔からそこに縛りつけられ、与えられた役割をきりなく繰り返している一群の幽霊のように見えた。

うず巻く強力なネオンの町

照明が基本的にキャンドルのみでお店が適度に暗い。揺らめくキャンドルの炎が、よりいっそうムードを引き立てる。

(フランス料理のメニュー表を見る)あゆみは腕きき弁護士が重要な契約書を読むときのような鋭い目つきで、メニューに書かれている内容を隅々まで二回ずつ読んだ何か大事なことを見落としていないか、どこかに隠された巧妙な抜け穴があるのではないか。そこに書かれている様々な条件や条項を頭の中で検討し、それのもたらす結果について熟考した。利益と損失を細かくはかりにかけた。

鮮やかな光の帯が、闇に放たれた。

酒場というよりカフエだった。