葬儀社のライトバンは、運転席以外のドアのガラスはすべて黒く塗りつぶされ、真っ黒な車体には文字もマークもない。特別仕様で天井を一段高くしてあり、レールを使って寝台部分だけをそのまま載せられるようになっている。

葬式であんなに感動したことはない。《…略…》「ああ、本来これが葬式というものだったんだ」と私は思った。生前に何があったとしてもすべてを忘れて、その場を共有している全員が 悼んでいる、惜しんでいる、心から悲しみ、 冥福 を祈っている。美しすぎる。生まれて、生き抜いて死んでゆく人生というものがすばらしく見えすぎる。このたった数時間に死んだ人もその人に 関 った人々も、すべてがゆるされている。 　品のいい花輪、心のこもったお供え物。 荘厳 な 読経。ひとりひとりがこの場にいることを本当に大切にして一丸となっている。

故人の一生を賛美するために人々が結集させた力

亡き社長の夫人はもう年老いているのにまるで若妻のようにはかなく、上品にたたえられた悲しみは喪服の全身から淡く立ちのぼり、愛されたことも死を覚悟したことも、まるで美しいことのように感じさせた。

（会葬者は）棒杭のように押し黙っていた。

熱海の冬の太陽はまるで外国の暖かい国へでも来ているような錯覚をさえ起さしめた。

弾丸のように行って、弾丸のように帰ってくる

熱海の町へ下りると、そこはもう車輛の騒音と排気ガスが渦巻く温泉都市であった。

祭りの熱狂に血が騒ぐ

帰り道はいつも何となくつまらない。ちょっと淋しい。