（馬のあとを）太った 銀 蠅 が、ぎらつきながらそのあとを追っていった。

眼の大きな一疋の蠅だけは、薄暗い廐の隅の蜘蛛の網にひっかかると、後肢で網を跳ねつつ暫くぶらぶらと揺れていた。と、豆のようにぽたりと落ちた。

蠅がふたたび、彼と女との汗の臭いを慕って、首のまわりを飛びまわりはじめた。

（冬のハエ）日蔭ではよぼよぼとしている彼らは日なたのなかへ下りて来るやよみがえったように活気づく。《…略…》彼らを見ていると彼らがどんなに日光を恰（たの）しんでいるかが憐（あわ）れなほど理解される。とにかく彼らが嬉戯（きぎ）するような表情をするのは日なたのなかばかりである。《…略…》日なたのなかから一歩も出ようとはしない。日が翳（かげ）るまで、移ってゆく日なたのなかで遊んでいるのである。

ひしめく蠅が、漣（さざなみ）が渡るように揺れて動く

糸の縫い目に、白い埃のように虱（しらみ）たちがじっとかくれている

ばったは二本の脚を伸ばし、日の光を羽根一ぱいに負いながら、何匹も飛び出した。

林に囲まれたこぢんまりしたお寺で、せみの声が何重にも渦を巻いていた。

ちりちりともつれたように短い啼音（なきね）を立てて、蝉が飛び移った

煮えつくような蝉の声の中にじっと坐って