志乃はだまって、暗闇のなかに衣ずれの音をさせた

僕は本を置いて懐中電灯を消し、直子を抱き寄せて口づけした。闇と雨音がやわらかく僕らをくるんでいた。

洋子は、精神的にも肉体的にも、今は彼の望むことの一切を受け容れたいという衝動に駆られた。彼の中に満たされないものが何も残らないほどに。──それは、洋子が初めて知る、ほとんど隷属に近いような欲望だった。

倉地と葉子とは互い互いを楽しませそしてひき寄せるためにあらん限りの手段を試みた。葉子は自分の不可犯性（女が男に対して持ついちばん強大な蠱惑（こわく）物）のすべてまで惜しみなく投げ出して、自分を倉地の目に娼婦（しょうふ）以下のものに見せるとも悔いようとはしなくなった。二人（ふたり）は、はた目には酸鼻（さんび）だとさえ思わせるような肉欲の腐敗の末遠く、互いに淫楽（いんらく）の実（み）を互い互いから奪い合いながらずるずると壊（こわ）れこんで行く

何となく気があるふたりがいて、何となく約束して、夜になって、食べて飲んで、どうする？　となって、今日あたりいけるとお互いが暗黙の打ち合わせをしてる

ゲレンデが溶けるほど恋いしたい

死ぬ程、愛し合っている

最初はいい年をして早漏気味に終り、二度目は、私の性的体験の中でもっとも完璧といえるほどの遊戯性、強度、持続、一体感を味わった

愛のない不幸な結婚生活を送る

なつかしい等（人名）、そのなつかしい肩や腕の線のすべてを目に焼きつけたかった。この淡い景色も、ほほをつたう涙の熱さも、すべてを記憶したいと私は切望した。