春がどこともなく地上に揺れ立つ

散歩は一年中楽しめるものであるが、特に春先がいい。ポカポカ陽気の中を、何の目的もなくブラブラ歩くのは楽しい。《…略…》秋の枯れ葉を踏んでの散歩もわるくはないが、春先の散歩とは少し趣を異にする。 　散歩はやはり春先がいちばん。 　よその家の庭先の、ようやく咲き始めた梅や桃の枝ぶりを見あげながら、ブラブラ歩いて行くのは楽しい。

春がもう豹のような忍び足で訪れていはしたものの

街は寒く、人々はコートを着込んでいたが、陽ざしにはかすかな春の匂いがした。まるで何か新しくて甘いものみたいに、ほんの少しだけ光っていた。

ねっとりとした春である。わずかにしめっている女の脇の下を思わせる春である。

惜し気もなく散る彼岸桜（ひがんざくら）を誘うて、颯（さっ）と吹き込む風

満開の八重桜の大木が、大きい花がさのように枝を広げて咲き満ちる

生温かい風が光を揺らせる。まるで木々の間を群れとなって移ろう鳥のように、空気がゆっくりと流れる。

庭が霜枯れて見えるほどまだ春も浅い

一雨ごとに、芒（すすき）はのびて、もう武蔵野は、夏めいてくる。

七時を過ぎたばかりの空からは、まだ薄い光が注いでいる。

何もかも凍りつくような厳冬の冬山

霧のように染み透る冬の重い冷気

このごろは夜も７時をまわれば、三つ星かがやくオリオンが空の東にのぼる

窓を開けると柔らかい陽と草の匂いの交じった春の匂いがして、桜がつぼみをつけていること、これがしばらくすると満開の淡いピンクの空間をうみだすこと。