馬の背のような峠を行く

道の傍らには小さな字（あざ）があって、そこから射して来る光が、道の上に押し被（かぶ）さった竹藪（たけやぶ）を白く光らせている。竹というものは樹木のなかで最も光に感じやすい。山のなかの所どころに簇（む）れ立っている竹藪。彼らは闇のなかでもそのありかをほの白く光らせる。

両側の視界を遮るブナ林が空気を濃密なものにしている。

（切り通し）鬚根（ひげね）がぼろぼろした土をつけて下がっている、壊（く）えた赤土のなかから大きな霜柱が光っていた。

山径の方は陰気ではあったが心を静かにした。

車がすれ違えないようなせまい道

みちの雪はかたまってはゐましたがでこぼこでしたから馬はたびたびつまづくやうにしました。

森につづく通りの並木は、マロニエの大木だった。青葉がかくれるほど、白い花が空に向って咲いている。

（雪の斜面は）滑石を塗ったように気味悪く光っていた。

急いでいた。近道を、と思って普段めったに通らない裏通りの急な階段を駆け降りて行った。