双子たちはそのあいだ野菜を切り肉を炒め米を炊いた。《…略…》ヘンデルの「レコーダー・ソナタ」をひっぱり出してプレイヤーに載せ、針を下ろした。《…略…》レコーダーとヴィオラとチェンバロのあいだに通奏低音のように肉を炒める音が入っていた。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 ページ位置:41% 作品を確認(amazon)
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生活音
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......体を拭き、ベッドに寝転んだ。洗って干したばかりのコーラル・ブルーのしわひとつないシーツだった。僕は天井に向けて煙草を吸いながら、一日の出来事を頭に思い浮かべた。双子たちはそのあいだ野菜を切り肉を炒め米を炊いた。「ビール飲む?」と一人が僕に訊ねた。「ああ」 208、というシャツを着た方がベッドまでビールとグラスを運んでくれた。「音楽は?」「あればいいな」 彼女はレコード棚からヘンデルの「レコーダー・ソナタ」をひっぱり出してプレイヤーに載せ、針を下ろした。何年も昔のバレンタイン・デーに僕のガール・フレンドがプレゼントしてくれたレコードだ。レコーダーとヴィオラとチェンバロのあいだに通奏低音のように肉を炒める音が入っていた。僕と僕のガール・フレンドはこのレコードをかけっぱなしにしたまま何度もセックスしたものだ。レコードが終り、針がパチパチと音を立てて回りつづけるまで、僕たちは何も言......
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