知床岬の山の上に、小粒の金がピカッと光ったかと思うと、それが、ぐんぐんと顔を出して、大きな太陽となって辺りを照らした

洗濯日和の午前の柔らかい日差しの中

空は灰色に 拡がり、時々まぶたに重いくらいの薄陽が船にさします。

海に入ると水面は太陽にあたためられ、とろとろしていて

日当たりのいい土手が続いていた。風のない昼下がりだった。《…略…》すべてのものが静かなぬくもりに包まれていた。

墓石を前にして、しばらく突っ立っていた。黒光りした固そうな石には父の面影などなかった

霊園は墓地というよりは、まるで見捨てられた町のように見える。敷地の半分以上は空地だった。

死は広大な敷地のそれぞれの地面に根を下ろしていた。《…略…》それぞれの名前と時と、そしてそれぞれの過去の生を背負った死は、まるで植物園のかん木の列のように、等間隔を取ってどこまでも続いていた。彼らには風に揺れるざわめきもなく、香りもなく、闇に向ってさしのべるべき触手もなかった。彼らは時を失った樹木のように見えた。彼らは想いも、そしてそれを運ぶ言葉をも持たなかった。彼らは生きつづけるものたちにそれを委ねた。《…略…》海からの潮風、木々の葉の香り、叢のコオロギ、そういった生きつづける世界の哀しみだけがあたりに充ちていた。

墓に花や水をやる

無数の死を築く墓地の方からは、人間の毛髪の一本一本を根元から吹きほじって行くような冷めたい風が吹いて来た。

採光窓から降ってくる真夏の陽射しが床タイルにくっきりとした窓枠の影を作っている。

光線が斜に射す午後、その狭い並木、叢（くさむら）の風景は、荒廃した園の趣と初夏の緑の活々した輝きとを相交え美しかった。

麦秋（むぎあき）によくある薄曇りの日

段々陽のさしそめて来る港町

雲の奥に月光の気配がわずかにうかがえる

高速の手前で車の流れは完全に止まっている。

すべすべに磨きをかけてある御影石の墓は、閃光に当たった面だけざらざらに焼け爛れ、光の当たらなかった方は元のまま滑らかになっている。

艦砲射撃と爆撃で鉄の雨を降らせる

車の列は思い出したように時折東へと流れ

旅慣れない私はこころの弾（はず）む思いがあった。