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レディバグ、レディビートル、てんとう虫は英語でそう呼ばれている。その、レディとは、マリア様のことだ、と聞いたことがあった。《…略…》マリア様の七つの悲しみを背負って飛んでいく。だから、てんとう虫は、レディビートルと呼ばれる。 七つの悲しみが具体的に何を指すのか、槿(人名)は知らない。が、あの小さな虫が、世の中の悲しみを黒い斑点に置き換え、鮮やかな赤の背中にそっと乗せ、葉や花の突端まで昇っていくのだ、と言われれば、そのような健気さを感じることはできた。てんとう虫はこれより上には行けない、というところまで行くと、覚悟を決めるためなのか、動きを止める。一呼吸を空けた後、赤い外殻をぱかりと開き、伸ばした翅を羽ばたかせ、飛ぶ。見ている者は、その黒い斑点ほどの小ささではあるが、自分の悲しみをその虫が持ち去ってくれた、と思うことができる。
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天道虫(てんとうむし)
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前後の文章を含んだ引用
......、てんとう虫に視線を戻す。茎を回りながら頂近くに到達し、もちろんそこに先程まで黄色い小花があったとは思いもしないだろうが、空へ飛び立つタイミングを計っている。 レディバグ、レディビートル、てんとう虫は英語でそう呼ばれている。その、レディとは、マリア様のことだ、と聞いたことがあった。誰から聞いたのかは思い出せない。誰かが耳元で囁いてくれた記憶もあれば、図書館で開いた本に記されていた記憶もある。子供の頃、教師が板書しながら説明してきた覚えもあれば、以前、仕事を依頼してきた誰かが、雑談の一環として話をしてきた記憶もある。どの記憶も似たような鮮明さで、すなわち、どれも同じようにぼやけ、真実を選ぶことができない。槿の記憶、思い出とはいずれもそうだった。 マリア様の七つの悲しみを背負って飛んでいく。だから、てんとう虫は、レディビートルと呼ばれる。 七つの悲しみが具体的に何を指すのか、槿は知らない。が、あの小さな虫が、世の中の悲しみを黒い斑点に置き換え、鮮やかな赤の背中にそっと乗せ、葉や花の突端まで昇っていくのだ、と言われれば、そのような健気さを感じることはできた。てんとう虫はこれより上には行けない、というところまで行くと、覚悟を決めるためなのか、動きを止める。一呼吸を空けた後、赤い外殻をぱかりと開き、伸ばした翅を羽ばたかせ、飛ぶ。見ている者は、その黒い斑点ほどの小ささではあるが、自分の悲しみをその虫が持ち去ってくれた、と思うことができる。 俺の仕事とは正反対だ、と槿は感じる。自分が人の背中を押すたび、陰湿で暗い影が周囲には増えていくように思えて、ならない。 なあ、槿。仲介業者は続けた。白衣の男は......
単語の意味
斑点(はんてん)
虚ける・空ける(うつける)
突端(とったん・とっぱな)
背中(せなか)
背負う(せおう・しょう)
天道虫・瓢虫・紅娘・店頭虫(てんとうむし)
斑点・・・ぶつぶつ模様。たくさん散らばった小さな点。
虚ける・空ける・・・ぼんやりする。何をする意欲もなくなる。気が抜けたようになる。
突端・・・突き出た端。先端。はじっこ。
背中・・・背の中央。背骨のあたり。動物の胴体の背骨のある側。胸や腹と反対の面で、両肩の間から腰のあたりまでの部分。背(せ)。背面。
背負う・・・1.運ぶべき物や人などを、背中にのせる。
2.苦しい仕事や重い責任などを引き受ける。
2.苦しい仕事や重い責任などを引き受ける。
天道虫・瓢虫・紅娘・店頭虫・・・テントウムシ科の甲虫の総称。背中は半球形でつやがある。赤地に黒の斑点があるものが最も多く普通。無地のものもいる。多くはアブラムシなどを食べる益虫だが、作物を食べる害虫もいる。「天道虫」の字の由来は、太陽に向かって飛んで行くので太陽の別名、天道(お天道さま)から。
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先ほどの植え込みにいたてんとう虫は、ひょいと空に飛んだ。小さなその黒い斑点の分だけ、その場の悲しみが、もちろんそれは本当に微量ではあるのだが、すっと軽くなる。
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小さな、赤い身体が可愛らしく、星のような黒い印はそれぞれが小宇宙にも思え、さらには、不運に満ちている七尾からすれば、ラッキーセブン、七つの星は憧れの模様と言っても良かった。
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植え込みのてんとう虫は、茎のこちら側から裏側へ、裏側から表面へと移動しながら、上を目指した。長い茎を、螺旋階段を模すように、くるくると回り込みながら、上昇していく。祝福を誰かに届けるために、せっせと駆け上がるかのようだ。
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レディバグ、レディビートル、てんとう虫は英語でそう呼ばれている。その、レディとは、マリア様のことだ、と聞いたことがあった。《…略…》マリア様の七つの悲しみを背負って飛んでいく。だから、てんとう虫は、レディビートルと呼ばれる。 七つの悲しみが具体的に何を指すのか、槿(人名)は知らない。が、あの小さな虫が、世の中の悲しみを黒い斑点に置き換え、鮮やかな赤の背中にそっと乗せ、葉や花の突端まで昇っていくのだ、と言われれば、そのような健気さを感じることはできた。てんとう虫はこれより上には行けない、というところまで行くと、覚悟を決めるためなのか、動きを止める。一呼吸を空けた後、赤い外殻をぱかりと開き、伸ばした翅を羽ばたかせ、飛ぶ。見ている者は、その黒い斑点ほどの小ささではあるが、自分の悲しみをその虫が持ち去ってくれた、と思うことができる。
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