綿菓子のようにふくらんで、風にのってながされている金魚もあった。

列を作った三匹の雄魚は順々に海戦の衝角突撃（しょうかくとつげき）のようにして、一匹の雌魚を、柳のひげ根の束（たば）の中へ追い込もうとしている。雌は避けられるだけは避けて、免（まぬが）れようとする。なぜであろうか。処女の恥辱のためであろうか。生物は本来、性の独立をいとおしむためか。それともかえって雄を誘うコケットリーか。ついに免れ切れなくなって、雌魚は柳のひげ根に美しい小粒（こつぶ）の真珠のような産卵を撒き散らして逃げて行く。雄魚等は勝利の腹を閃めかして一つ一つの産卵に電撃を与える。

人が金魚を作って行くのではなく、金魚自身の目的が、人間の美に牽かれる一番弱い本能を誘惑し利用して、着々、目的のコースを進めつつあるように考えられる。

（金魚は）池の面が散り紅葉で盛り上るように殖（ふ）えて

生物にして無生物のような美しい生きもの金魚

きろきろきろきろと風船玉を擦り合わせるような蛙の声

荒海に逆巻く波濤の怒号のような蛙の鳴き声

清らかな小川を鱒が踊るように泳いでゆく

藻や塵芥の下を潜って影のような魚がヒラヒラ動いている。

病人のかさぶたのように貝殻がびっしりとこびりついている。