この町、少し古びていて少し整然としている建物や、広い道路にふちどられている場所。

猫の額見たような小さな汚ねえ町でさあ。

山のなかの寒村で、村は百姓と木樵（きこり）で、養蚕（ようさん）などもしていた。冬になると家の近くの畑まで猪（いのしし）が芋を掘りに来たりする。芋は百姓の半分常食になっていた。

西洋菓子の間に詰めてあるカンナ屑（くず）めいて、緑色の植物が家々の間から萌（も）え出ている。ある家の裏には芭蕉（ばしょう）の葉が垂れている。糸杉の巻きあがった葉も見える。重ね綿のような恰好（かっこう）に刈られた松も見える。みな黝（くろず）んだ下葉と新しい若葉で、いいふうな緑色の容積を造っている。

大木の日蔭にある草が枯れて行くように小河内は発展する東京の犠牲になって枯れて行くのである。

まるで軍艦みたいな建物がふえている。

（青空の）その蒼の下で村はのどかに息づいているようであった。

古ぼけた浪人のいるような家だ。電燈が馬鹿にくらい。どんなおばけが出て来るかと思った。

武家風とも数寄屋風ともつかぬ玄関がまえ

突きだした軒が陽光を遮り、彼女は涼しげな陰の中にいた。