早春の陽射しに草木が映える

動きの多い空の雲の隙間（すきま）から飴色（あめいろ）の春陽が、はだらはだらに射（さ）し下ろす。

日差しは暖かいが、夏はまだ遠く、町は落ち着いた雰囲気だった。

春の光が白っぽく散る

雲はその平地の向うの果である雑木山の上に横（よこ）たわっていた。雑木山では絶えず杜鵑（ほととぎす）が鳴いていた。その麓（ふもと）に水車が光っているばかりで、眼に見えて動くものはなく、うらうらと晩春の日が照り渡っている野山には静かな懶（ものう）さばかりが感じられた。そして雲はなにかそうした安逸の非運を悲しんでいるかのように思われるのだった。

初夏の匂いが、街じゅうにあふれていた。 　穏やかで力があって、苦しいほどの草の匂いがする。

（大勢の）足音も人声も、春の暮れがたの空に吸われて、音が尖ってきこえず、やわらかい円みを帯びてきこえる

春になると恋が芽ばえ 夏は燃えさかり 秋は枯葉とともに落ちる

しいんとした午（ひる）さがりの弱い陽ざしのなかで、紅梅の花弁が鮮明

日が落ちて、春先らしい小寒さが忍び寄る