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今でも私の心の底にまざまざと残っている一枚がある。それは八号の風景にかかれたもので、軽川 あたりの泥炭地 を写したと覚しい晩秋の風景画だった。荒涼と見渡す限りに連なった地平線の低い葦原 を一面におおうた霙雲 のすきまから午後の日がかすかに漏れて、それが、草の中からたった二本ひょろひょろと生 い伸びた白樺 の白い樹皮を力弱く照らしていた。単色を含んで来た筆の穂が不器用に画布にたたきつけられて、そのままけし飛んだような手荒な筆触で、自然の中には決して存在しないと言われる純白の色さえ他の色と練り合わされずに、そのままべとりとなすり付けてあったりしたが、それでもじっと見ていると、そこには作者の鋭敏な色感が存分にうかがわれた。そればかりか、その絵が与える全体の効果にもしっかりとまとまった気分が行き渡っていた。悒鬱 ――十六七の少年には哺 めそうもない重い悒鬱を、見る者はすぐ感ずる事ができた。
有島武郎 / 生まれいずる悩み ページ位置:3% 作品を確認(青空文庫)
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絵を描く
美術品 ・ 芸術作品
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前後の文章を含んだ引用
......れたのだった。それは私の心が美しかったからではない。君の絵がなんといっても君自身に対する私の反感に打ち勝って私に迫っていたからだ。 君がその時持って来た絵の中で今でも私の心の底にまざまざと残っている一枚がある。それは八号の風景にかかれたもので、軽川 あたりの泥炭地 を写したと覚しい晩秋の風景画だった。荒涼と見渡す限りに連なった地平線の低い葦原 を一面におおうた霙雲 のすきまから午後の日がかすかに漏れて、それが、草の中からたった二本ひょろひょろと生 い伸びた白樺 の白い樹皮を力弱く照らしていた。単色を含んで来た筆の穂が不器用に画布にたたきつけられて、そのままけし飛んだような手荒な筆触で、自然の中には決して存在しないと言われる純白の色さえ他の色と練り合わされずに、そのままべとりとなすり付けてあったりしたが、それでもじっと見ていると、そこには作者の鋭敏な色感が存分にうかがわれた。そればかりか、その絵が与える全体の効果にもしっかりとまとまった気分が行き渡っていた。悒鬱 ――十六七の少年には哺 めそうもない重い悒鬱を、見る者はすぐ感ずる事ができた。 「たいへんいいじゃありませんか」 絵に対して素直 になった私の心は、私にこう言わさないではおかなかった。 それを聞くと君は心持ち顔を赤くした――と私は思った......
単語の意味
単色(たんしょく)
色感(しきかん)
荒涼・荒寥(こうりょう)
含む(ふくむ)
画布(がふ)
晩秋(ばんしゅう)
風景(ふうけい)
単色・・・他の色のまじっていない、ただ1色。
色感・・・色から受ける感じ。色を感じる感覚。
含む・・・1.口の中に入れて噛んだり飲み込んだりせず、そのままの状態のこと。
2.ある気持ちを態度に示したり、なんとなくにおわす。「憂いを含んだ表情」
3.ある範囲の中にその要素が入っていること。「サービス料を含んだ値段」
2.ある気持ちを態度に示したり、なんとなくにおわす。「憂いを含んだ表情」
3.ある範囲の中にその要素が入っていること。「サービス料を含んだ値段」
画布・・・油絵を描くための布。キャンバス。カンバス。
晩秋・・・秋の終わりごろ。秋の末。暮秋。陰暦9月の異名。
風景・・・自然の景色。目の前に広がる眺め。その場の情景。
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絵を描くの表現・描写・類語(動作・仕草・クセのカテゴリ)の一覧 ランダム5
伸子の眼に彼のカンヴァスは醜怪以外の何ものでもなく映った。
宮本百合子 / 伸子
粗末な画学紙の上には、たくましく荒くれた君の手に似合わない繊細な線が描かれ始めた。
有島武郎 / 生まれいずる悩み
決して、特別な才能を感じさせる絵ではなかった。
平野啓一郎「ある男」に収録 amazon
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美術品 ・ 芸術作品の表現・描写・類語(道具・家具のカテゴリ)の一覧 ランダム5
芸術という正体の掴 み難いもの
岡本かの子 / 母子叙情
本物の画家が描く絵は祈りにも似ている
伊坂 幸太郎 / ラッシュライフ amazon
(マチスの美術館)私はその静かな空間にあふれる色彩を見て、マチスの心のかけらを永遠に体と心に写し取ったような気さえした。
吉本 ばなな「アムリタ(下) (新潮文庫)」に収録 amazon
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「道具・家具」カテゴリからランダム5
清廉な佇まいで飲み口の薄いアンティークの紅茶茶碗
綿矢 りさ / 仲良くしようか「勝手にふるえてろ (文春文庫)」に収録 amazon
五個の時計はどれも 洒落 た感じのプラチナカラーだ。丸みを帯びた角型の小さな文字盤に、少しずつ趣向を変えた 華奢 な金属ベルトがついている。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
「動作・仕草・クセ」カテゴリからランダム5
すうッと消えるように出て行った。
木山 捷平 / 大陸の細道 amazon
虫になったザムザのように、その丸くいびつな身体を床の上で器用に動かし、筋肉をできるだけほぐした。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
人々はさせ子にお礼とおやすみを言って、それぞれの夜に散って行った。
吉本 ばなな「アムリタ(下) (新潮文庫)」に収録 amazon
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