胸の奥の不安の 在処 を 鷲 摑 みにされたかのような感じがした。

唐木田のひと言は、佃の胸に一滴の不安となって落ちた。

不安に打たれる

どういうわけか息苦しくなって、肩を上下させて深呼吸をしてみた。肩に圧しかかってきた不安を、取り除こうとする。

心の中の拭い切れぬ影が雨雲のようにひろがる

心臓が早鐘のように打つ

その必死すぎる目に引き込まれないように、心をそらした。街灯に照らされた小さな手を見ていた。

冒険心と恐怖心とが交錯しているようにみえた。

胸の動悸は心臓を潰さんばかりであった

肋骨の中で心臓が喜んで跳ねている。

憂国

いい気持ちがしない

憂思

表情は恐怖に 歪んでいた

手が震える。必死にイアフォンのコードを引っ張り耳に突っ込む。麻薬中毒がドラッグを求める姿と似ていた。不安感が自分を押し潰す前に、クスリを投与しなくてはいけない。クスリは耳から注入する。ウォークマンの再生ボタンを押した。 　病院の名は、「ビートルズ」だ。この場合の薬剤師はきっと、「ジョージ・ハリスン」で、薬の名前は、「HERE COMES THE SUN」だった。 　ボリュームを上げ目を閉じ、じっと聴く。「It's All Right」と繰り返される。豊田はそれを自分の中で何度も繰り返した。「大丈夫だ。大丈夫だ。It's All Right」と繰り返し、不安感を取り除いていく。二回同じ曲を聴く。