自分のように一生という永い時間をかけて、世間という広い広い部屋で、筆を小刀（メス）に心身を切りこま裂いて見せ、それで真実が届くやら、届かぬやら判りもしない、得体の知れない焦立たしいなやみの種を持つものは、割の悪い運命に生れついたものである。

この人、本当に作家なのかな、と思うほどてきとうな文章

（詩人）詩は印刷機械のようにいくつでも書ける。只、むやみに書けると云うだけだ。

（詩人）詩人は共喰いの共産党だ。持ってるものは平等につかう。借金もそれ相当なもの。手近な目的はただ食べる事に追われるばっかり。人命終熄（しゅうそく）の一歩手前でうろうろしているばかりなり。天才は一人もいない。自分だけが天才と思っているからよ。それ故、私たちはダダイスト。只何となく感じやすく、激しやすく、信念を口にしやすい。何もないくせに、まずここんところから出発してゆくより仕方がない。

作家は着実に書き続けることによってしか成長しない。毛虫が葉っぱを食べるのを休まないのと同じだ。

浮浪者が筵（むしろ）の上に芋虫のように転がっている

藻草を纒ったような船夫達

公園の中には、樹とおんなじように埃をかぶった人間が、あっちにもこっちにもうろうろしている。

ある一軒の料亭で船乗りの宴会があった。少し酔って来るとみな料理が不味（まず）いと云い出した。苦笑した料理方が、次から出す料理には椀（わん）にも焼ものにも塩一つまみずつ投げ入れて出した。すると客はだいぶ美味（おい）しくなったといった。それほど船乗りの舌は鹹味（かんみ）に強くなっている。

（機関士）汽車は、ずっと警笛を鳴らし続けていた。 　ポッポヤはどんなときだって涙のかわりに笛を吹き、げんこのかわりに旗を振り、大声でわめくかわりに、喚呼の裏声を絞らなければならないのだった。