茫漠と広がる砂の海

乾いた砂が長靴のくるぶしまでを 捉えて、自由がきかなかった。

巨大な水鳥の上嘴（じょうし）のように、細長い尾根筋のふくらみ上がった砂丘

（タクラマカン砂漠）あそこの砂はパウダー状で軽くて実体がなくて、それがもう四方八方見渡す限りどこまでも広がってる。自分の身体なんてあっという間に砂に同化して風に飛ばされてしまいそうな気がするんだ。あの砂漠では誰でも死について考えてしまう。というより、皮膚がひりひりするくらいに直接死を感じてしまうんだ。絶対零度の孤独って吐き気にちょっと似てるよね――

白い湖のように輝く砂漠

急峻な森の坂道をあえぎあえぎのぼる

なだらかに裾の広がっている山

灰色に蜿蜒（えんえん）と続いた山壁

水を浴びた花壇は、花粉の一粒一粒までがきらきらと光っていた。弟はとてもゆっくりと瞬きをしていた。睫の一本一本が花粉の光を弾いていた。弟が、露のついたもぎたての果実のように新鮮に見えた。

今度の部屋は二十五階だった。 　窓からの景色に高層ビルはなく、人家と街路の灯火、車のライトの流れが低く遠くまで拡がっていた。