（貧しい片親の暮らし）母は私に自分のことは自分でしろとか、家事を手伝えとか言ったことは一度もありません。ただ、自分一人の力で立っている母の後ろ姿を見ていると、そこに寄りかかってはいけないと、子ども心に強く感じることができました。何て言うのでしょう？　家庭が人を支える土台だとすれば、私と母は水面にほんの少しだけ頭を出している石の上に二人で乗っているようなもので、どちらか一人でもバランスを崩してしまうと、二人して水の中に放り出されてしまう、そんな感じでした。

育ちざかりの子供《…略…》にとって、血液のように必要なものらしい父と母の揃っている家庭の自然な雰囲気

子供が一人家の中にいると楽しいし、みんな若がえるよ。うるさいけどね。毎日目の前で育っていく感じがして、すごく面白いよ。

わが家は、海綿のようにたっぶり日常性を吸い込んで

父にとって、妻ほど愛した存在はかつてなく、この先もいなかった。長ずるにつれ妻に似ていく娘の姿は、祝福であり呪いだった。

いかにもしおしおと、細かい挙動の一つ一つで岡に哀訴するように見れば見なされた。

子供の笑い声に似た軽薄な朝の光

二寸位に延びた薄い髪の毛は栄養不良から、まるで 光沢 がなく、手や足の皮膚はカサカサになって、白い 粉 を吹いていた。

くだらない奴ほど威張っている

長く監獄に入れられた人のように、艶（つや）のない黄色くむくんだ、始終ボンヤリした顔