黒煙の隙間からオレンジ色の炎が見えかくれする

火の壁をくぐって、亡霊のような人影がもつれ合いながらよろめき出る

炎が廊下の絨毯や壁紙を飲み込みながら迫ってくる

立ち込めた黒煙がまとわりついてくる

じりじりと肌をあぶられるような熱気を感じる

内側に毒が塗られたワイングラスは曇って汚くなっている

家々の背面が、芝居のあさぎ幕のように明るくなり、激しい火の手があがった。

街を抜ける大きな交差点の所で、私も柊もほんの少し気づまりを感じる。そこは、等とゆみこさんの事故の現場だった。《…略…》ひそやかに厳粛な気持ちが訪れる。愛する者の死んだ場所は未来永劫時間が止まる。もし、同じ位置に立てたなら、その苦しみも伝わるといいと人は祈る。よく観光で城なんかに行き、何年前、ここを誰々が歩いたのです、体で感じる歴史です。とか言うのを聞く度に、なに言ってんだと思ったものだが、今は違う。わかる気がする。

鋼鉄のような主張

現場が沸き立つ

（火傷のあと）その肉のひきつりはカンナの 葩はな のような形をしていた。

末広な、青ッぽいカンテラの光が揺れる度に、ゴミゴミした棚の一部や、脛（すね）の長い防水ゴム靴や、支柱に懸けてあるドザや袢天（はんてん）、それに行李（こうり）などの一部分がチラ、チラッと光って、消えた。

灯（ともし）は、その炎のまわりに無数の輪をかけながら、執拗（しゅうね）い夜に攻められて、心細い光を放っている。

風はなく、煙は真直に突立って、私の眼の高さの中空から、扇形に開いた。

煙はゆっくりのぼって行ったが天井のまぎわで、おそわれた鶏のようにふいに乱れた。