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いつも自分の頭へ浮かんで来るわけのわからない言葉があったことを吉田は思い出した。それは「ヒルカニヤの虎」という言葉だった。《…略…》吉田は何かきっとそれは自分の寐 つく前に読んだ小説かなにかのなかにあったことにちがいないと思うのだったがそれが思い出せなかった。また吉田は「自己の残像」というようなものがあるものなんだなというようなことを思ったりした。
梶井基次郎 / のんきな患者 ページ位置:26% 作品を確認(青空文庫)
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忘れる・思い出せない・曖昧な記憶
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前後の文章を含んだ引用
......と苦しかった二週間ほどのことが頭へのぼって来た。それは思想もなにもないただ荒々しい岩石の重畳する風景だった。しかしそのなかでも最もひどかった咳の苦しみの最中に、いつも自分の頭へ浮かんで来るわけのわからない言葉があったことを吉田は思い出した。それは「ヒルカニヤの虎」という言葉だった。それは咳の喉を鳴らす音とも連関 があり、それを吉田が観念するのは「俺はヒルカニヤの虎だぞ」というようなことを念じるからなのだったが、いったいその「ヒルカニヤの虎」というものがどんなものであったか吉田はいつも咳のすんだあと妙な気持がするのだった。吉田は何かきっとそれは自分の寐 つく前に読んだ小説かなにかのなかにあったことにちがいないと思うのだったがそれが思い出せなかった。また吉田は「自己の残像」というようなものがあるものなんだなというようなことを思ったりした。それは吉田がもうすっかり咳をするのに疲れてしまって頭を枕へ凭 らせていると、それでもやはり小さい咳が出て来る、しかし吉田はもうそんなものにいちいち頸 を固くして応じ......
単語の意味
虎(とら)
虎・・・1.ネコ科の哺乳動物の中で最大の種。背中から腹にかけて黄色の地に黒い縦縞(たてじま[=頭と尾を結ぶ線に対して、直角に交わる縞模様])がある。口が大きく、鋭い牙と爪を持ち、眼光が鋭い。アジア地域では、強さや恐ろしさの象徴。肉食で、単独で狩猟を行う。皮は敷物などに用いられたが、乱獲され、現在では各地で保護されている。
2.俗に、酔っぱらいのこと。
2.俗に、酔っぱらいのこと。
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確実に記憶の棚に入っていてその棚がどこにあるのか分かっている。しかし引き出しが引っかかって開かない。出てきそうで出てこないもどかしさに頭の中身を引っかき回したくなる。
七尾 与史 / 死亡フラグが立ちました! (宝島社文庫) amazon
もはや忘れたことすら気づいていない記憶がたくさんある。忘れてはいないのだが、もう死ぬまで思い出さないかもしれない記憶もあって、考えようによったら忘れるよりもその方が残酷だ。
滝口 悠生 / 死んでいない者 amazon
僕が思い浮かべることのできるワタナベ・ノボルの姿はまるで失敗した似顔絵のようにどことなくいびつで不自然だった。特徴だけは似ているのだが、肝心な部分がすっぽりと欠落している。彼がどのような歩き方をしたのかさえ、僕にはもう思いだせないのだ。
村上春樹 / ねじまき鳥と火曜日の女たち「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 amazon
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二十日鼠がひがな一日小さな車を廻すように、一つの言葉が頭の中で音を立てて廻っている
向田 邦子 / 思い出トランプ amazon
記憶を引っくり返していた。
伊坂 幸太郎「陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)」に収録 amazon
少女の声、その残響が、まだうっすらと鼓膜に残っている。
新海 誠「小説 君の名は。 (角川文庫)」に収録 amazon
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