うそというものはしかし、どんな精密なものでも結局は編みもので、一たんばれてほぐれかけたら、これまたとことんまで崩れてしまうものだ。

職業柄毎日たくさんの女性客と接しているせいか、企みや裏がある人には気づく。数えきれないほどの人数と初対面をくり返すうちに、ふとした瞬間の目の動きや表情の翳りで、本音と建前が乖離していることを察する。

（嘘をつくのが下手）「見たこともないよ」と羊男は言った。 　しかし羊男が鼠と羊について何かを知っていることは明らかだった。彼は無関心さを意識しすぎていた。答え方のタイミングが早すぎたし、口調も不自然だった。

彼女は僕の口調の中に不自然に歪められた冷淡さを感じとったようだった。僕は昔から噓をつくのがかなり苦手な方なのだ。

（聞かれてはいけない話を聞かれていた）一方的に話し終え、受話器を置いたとき、家の中に気配を感じた。 　乃武夫が台所で水を飲んでいた。 「入るときは玄関から入れよ」 　自分でも声が震えているのが判った。 「みんな、居ないの？」 　屈託のない乃武夫の声に、ほっとしたのだが、やはり聞いていたのだ。

（町で偶然会って人違いだと誤魔化しきれない）「明美。」 　Ｋは突然私の名を呼んだ。 　その強い目の光を見た時、私は反射的に人違いだとはごまかせなくなってしまった。そういう意図がみえみえの 噓 は、気合いでつくしかないのでタイミングをずらすと崩れてしまう。

飲むほどに、酔うほどに打ち解けた。

照れ隠しのつもりか、軽く肩をすくめてみせた。

私ははっきり言ったと思う。あるいは口に出せなかったかもしれない。でも、萃（人名）の心のピントが合った。はっと目を見開いて、萃は私の思考のエネルギーを受け取ったような表情をした。

「ボス」の前だからだろう、悠木が入室した瞬間こそ怪訝な表情を見せたが、日ごろの癇癪玉が噓のような和やかな顔だ。