眼で見ていながら信ずる事が出来ない

眩 ゆい外の光景を 眺めると、だんじりも船の群れも、遠い夢の中の 煌めきのように思われる。

（まだ実感がない）私にとって、えり子さんの死はまだ遠くにあった。まともに受けとめることができない。ショックの嵐の向こうから、少しずつ近づいてくる暗い事実だった。

（現実感なくぎこちなく歩く）身体が浮き上がっている感じはまだ続いている。駅からここまで歩く間も、靴の底と地面との間が三センチほどあいているようでどこか心もとない。不可解な劇中劇を強制的に演じさせられている大根役者みたいだ。

（現実感がない）食事の間じゅう、十和子は一種の浮揚感につきまとわれている。椅子にすわってものを食べている身体から少し浮き上がったところに自分がいるような、あるいは、いつか水島に贈ったガラスのペーパーウェイトのなかのあの気泡によく似たものが、しきりと体内から逃れ出ようとしているような、そんな感じ。無重力とはいわないが、宇宙船の内部の人工的に作りだされた重力場にいる、そんなぎこちなさ。《…略…》夢だ。こんなふうにどうしても身体が浮いているのが夢であることの証拠だ。

頑固一点張りのコンクリートの塊のよう

運動競技のルールのごとくに明快

感じやすい

目の前には、さまざまな幻が、瀕死（ひんし）の彼をあざけるように、ひっきりなく徂来（そらい）する

子どもの寝言ほどの価値もない