銀座などとちがって、狭い山ノ手のカフェでは、孤独な客が他所（よそ）のテーブルを眺めたりしながら時を費すことはそう自由ではない。

そこにデザートとエスプレッソが運ばれてきて、話が中断した。

味がわかる客がカウンターの向こうに座ると、板前はびびっと電流を感じる

ガラス張りのカフェ

タバコの煙とコーヒーの入り混じった臭いが一帯に立ち籠めていた。

（元日の夜の東京駅は）半分扉をおろしたようながらんとした静けさである。

水族館はいつも冷やりとした水族館的沈黙に支配されていて、時折ぴしゃぴしゃと水のはねる音がどこからともなく聞こえてくるだけだった。仄暗い廊下の角で半魚人が息をひそめているような感じだった。

教室の中は、蜂の巣をつついたような騒音に満たされていた。

バーテンダーはやることがないのでグラスを磨いている

（地下街）駅舎内の連絡通路に入り、最初に目についた階段から地下街に下りる。両側にテナントショップの並んだ路は先が見えないほど長く、途中で複雑に分岐している。何種類もの音楽と、電子音と、無数の足音と、どこかで動いている巨大な空調機器のゴーっという音と、もっと深いところからくる地下鉄の地鳴りとが、入り混じって反響し合う通路を進んでいく。ところどころに地上への階段の開口部があって、そこからは剥きだしのクラクションやエンジン音が、前世の記憶みたいに流れ込んでくる。しゃべりながら歩いている者は誰もいない。膨大な音のなかに、そういえば人間の肉声だけが含まれていない。