起きている窓はなく、深夜の静けさは暈（かさ）となって街燈のぐるりに集まっていた。固い音が時どきするのは突き当っていく黄金虫（ぶんぶん）の音でもあるらしかった。

（夜は）しっとりと月光の中に静まり返っていた。

寝静まった街

夜のしずかな物音をきいていた。虫の音、車両の音、どこかで赤子が泣いている

星が瞬く音も聞こえてきそうなほどの静寂

水のような夕やみが、ひたひたと水車小屋のなかにみちてきた。

ふと、眼を 開いた時にはいつか、 四辺 は青味勝ちの夜明けになっていた。星はまだ姿を隠さず、数だけが少なくなっていた。空が柔らかい青味を帯びていた。それを彼は慈愛を含んだ色だと云う風に感じた。

窓から差し込む光の濃さで、日が傾いてゆくのが分った。

部屋では、ほとんど文庫本をめくって過ごした。窓の外が夕暮れめいてくると急かされた心地になり、ようやく家を出る。

潮騒のような遠い蛙の声が、またたく星を頼りなく揺すぶる