慣れた操作で車を発進させる

申し分なく快適なドライブだった。僕らはカー・ラジオを大きな音でかけ、窓を開けっぱなしにし、海岸沿いのハイウェイを時速一二〇キロで飛ばした。あらゆる場所に光と潮風と花の香りが満ちていた。

終電車はもうとうに終わっている。駅舎もホームも照明が落とされて暗い。駅周辺の商店も、住宅も、明かりの漏れている建物は少なく、林や畑はもとより夜の闇そのものみたいに真っ暗、というか真っ黒に映る。 　そのなかをまばらな街灯が繫いで示す道は細く頼りなく曲がりくねり、今は寝静まっているこの街の人々の住まいと住まいを結びながら闇に突っ込んだように途絶えたり、明るいオレンジ色の街灯とともに北側を太く力強く走る国道に届いたりした。 　その国道こそ時折トラックなどが走ってきて去っていき、動きの乏しいこの町の夜景が、時間の止まった静止画ではないことを気づかせてもくれるのだったが、南側の畑が広がる間の細い道路を移動する自動車の光があると、むしろ時間と空間を超え来た物体を夜空に見ているような錯覚に陥った。

いままでの渋滞の憂さを晴らすかのように思い切りスピードを出して

フロントガラスに木漏れ陽が明滅する湖岸道路を抜け

貨物列車が爽やかな息を吐きながらしず／＼パッシイ街の方へ越えて行く。

トンネルに入り、振動音が変わった。周囲が急に暗くなる。水の中に潜ったかのような圧迫感が車内を覆う。

闇をつんざきつつ、五台の自動車が、無言のまま物の怪に憑かれたように疾走する

私はぼんやりと、山へはいって行く汽車にゆられていた。

吹き飛ばされるかのように、後ろへ通り過ぎていく建物を目で追いながら