こんな生きる責務の重い世の中へ親あればこそ生れ来たった子。この世に出ようという意志が子にあって、自ら進んで出て来たわけでもないものを、親は先（ま）ず本能愛以外の明瞭（めいりょう）な責任観念からも、この世に於ける子の運命の最大責務者とならなければならない。

食うものがあろうがなかろうが子供は芋の子のように出来て去年の暮れに八人目が生まれ

（新生児）赤ん坊は握り締めていた手を開き、またぎこちなく指を折り畳んだ。爪は理不尽なほどに小さく、青黒く変色していた。私の粘膜を引っ搔いた血が、爪の間で固まって濁っているのだった。

壁を突き破るような産声が湧き起こる

（新生児）産院の、小舟のような形の透明なベッドに収まった赤ん坊を見た時、自分の中にわいたのは、喜びよりも怖れに近いものだった。生まれてからまだ数時間しか経っておらず、まぶたにも、耳たぶにも、踵にも、さっきまで羊水に浸かっていたふやけた感じが残っていた。目は半ば閉じられていたが、眠ってはいないらしく、大きすぎて身体に馴染まない産着からはみ出た手足を、小刻みに動かしていた。まるで、間違った場所に置き去りにされた不満を、誰かに訴えているかのようだった。

老木の朽ち枯れるそばで、若木は茂り栄えて行く。

「誰かが死ぬと、残された人たちはみんな、その人にまつわるいろんな後悔を背負って生きていかなくちゃいけないんだね。」

一冊の古びたペーパーバック「Ｎ・Ｐ」と、バインダーと、ロレックスのずっしり重い時計。 　これらが、庄司の形見だった。 　彼は４年も前に睡眠薬自殺をしたのだ。そしてこれらを手にしたときから、いつも私の心のどこかにこの品々があった。 　たとえば昼間、私が働いている大学の研究室で。ふと耳をすますと遠くでサイレンの音が町を駆けてゆくのが聞こえたりするとき、うちの近くかな、と思う、そんなとき必ずこれらが心に浮かぶ。それ位、重い品々だ。

苦しみののたうち回った後、ムンクが絵に描きそうな表情で死ぬ

（死の予感）死がすぐそばまで迫っていて、突然僕の足首を掴みそうな気がする