尺取り虫のように音もなく声もなく気がついたらそこにいる

猫の足はあれども無きがごとし、どこを歩いても不器用な音のした試しがない。空を踏むがごとく、雲を行くがごとく、水中に磬（けい）を打つがごとく、洞裏（とうり）に瑟（しつ）を鼓（こ）するがごとく、醍醐（だいご）の妙味を甞（な）めて言詮（ごんせん）のほかに冷暖（れいだん）を自知（じち）するがごとし。

影のごとく音もなく動く

「アダチ・クミ」と天吾は声に出してみた。「悪くないよ。コンパクトで余計な飾りがない」「ありがとう」と安達クミは言った。「そんな風に言われると、なんかホンダ・シビックになったような気がするね」

獣のように跫音あしおとを忍ばせながら

歩き方もサッサッと若い人のようだ。

一歩一歩重い足を引きずるようにして歩く

カタカタと下駄の音がする

芋虫のようにクネクネ進む

見逃しを食った罪人のように、足音を殺して。