（象舎の象をのぞき見る）プライヴェートな時間の象の姿を見たかった

（暗い窓ガラス）暗い窓ガラスが鏡のように自分の姿を映した。《…略…》窓に近づくと、 暗闇 でしかなかった窓の奥に、白い一点の光が浮かびあがった。さらに近づくと、その空間は画廊であり、光のように見えた点は絵画の一部だとわかった。窓ガラスに鼻が触れるほど顔を寄せて内部をのぞく。徐々に眼が暗闇になれ焦点が合ってくる。

寛子の顔が、生首のように覗いて

せりあがったブラインドの隙間に顔をはめこんでガラス窓に顔をつけると、雨の粒子が磁石みたいに吸いついてきた

蟹のように穴から顔を出す

照れたみたいに顔を背けて

涙が出て、初め、よく見えなかった。

彼はまだじっとぼくの目を見ていたし、ぼくも視線をそらせなかった。

貪り見る

母は少しほほえんで私を見た。 　そのでっかい目で、あまりにも普通に、まっすぐに見るので、あまりにあけすけな視線だから、これにさらされると心を閉じているほうがむつかしくなる。《…略…》きっと私も時々こういうぶしつけな視線で人を見据えることがあるのだろう。そして人をむりやり解放したり正直にしたりしているのかもしれない。それはもしかしたら他人にとまどいと愛情の入り混じった変な 懐かしさを喚起させるのかもしれない。