田畑が成す緑の景色に駅舎や道路など新しい建造物の灰色が囲まれ、自然と人工の調和が彼には近未来を感じさせた。

街を見回す。白、灰色、黄緑色、黄土色、と私は学校で使う絵の具に書かれた色の名前を思い出しながら呟く。この街のほとんどは、この四つの色で塗り潰されている。 　この街のイメージカラーは白なんだよ、と、引っ越してきたばかりのころ、父が教えてくれた。清潔で、ニュータウンという新品の街のイメージにぴったりだからだろうか。確かに、駅も、駅前の広場も、学校も、全部真っ白だった。 　街の奥にある森の深い緑や凄みのある黒ずんだ土などは、どんどん街に塗り潰され、淡い四色に飲み込まれていく。

そこは旧い貧民街を蚕食（さんしょく）して、モダンな住宅が処々に建ちかかっているという土地柄だった。

京都も、年毎に東京と大阪へ近づきつつある。国籍不明の風俗と建物が山や川を押し退け、古い都の名残りをとどめる唯一の町を侵蝕しはじめてきた。

日本の田舎が都会の侵蝕にまかせて、けばけばしく荒れ果ててしまったのにくらべて、フランスの田舎は、あくまでも田舎そのものだ。

慣れないスポーツブラのゴムが、私のあばら骨を締めつけていた。 　このところ、胸が痛い。膨らみかけている痛みだと、性教育の授業で教わった。近いうち、私もホックのブラジャーをつけないといけなくなるかもしれない。 　膨らみかけているこの街も、こんなふうに痛みを感じてるんだろうか。

（日に日に大きくなる開発中のニュータウンに暮らす少女。成長期による膝の痛みをかかえる。できたばかりの白いレンガが敷き詰められた道と通って）「私たち、骨の中で暮らしてるみたい」 　肘と膝が、また痛んだ。私たちの手足の中にあるような、伸びる骨。まるでその骨の中に紛れ込んだみたいだ。白い世界は少しずつ広がって、完成へと近づいて行く。

麓の蜜柑畑が更紗の模様のようである。

新鮮な緑と絵のような風物とゆたかな光線。

二階から見える黒い卓子の上には黄水仙が三毛猫のように見えた。

人々のざわめきや、車の音がひとつに入り混じって、都会特有の開放的な音を作り上げていた。

絵みたいに美しい風景

思春期になって少し心閉ざした子供

昆虫が蝶になって、繭（まゆ）を食い破って飛び出ようとするのに似た青春の一時期

赤ん坊の太腿は大抵、エロティックなくらい無防備で、そこだけ別の生物のように生々しく張り詰めている。

西も東もわからない年頃

二十歳の自分の苛立たしさ、標本に針で止められた昆虫のあがきに似ている