ステレオだかラジオだか分からないが、車内にともる細かい光が、まるで季節外れの蛍の群れのように見える。

電車がなくなる

月はまだ上らない。見渡す限り、重苦しいやみの中に、声もなく眠っている京（きょう）の町は、加茂川の水面（みのも）がかすかな星の光をうけて、ほのかに白く光っているばかり、大路小路の辻々（つじつじ）にも、今はようやく灯影（ほかげ）が絶えて、内裏（だいり）といい、すすき原といい、町家（まちや）といい、ことごとく、静かな夜空の下に、色も形もおぼろげな、ただ広い平面を、ただ、際限もなく広げている。

夜になるとその谷間は真黒な闇に呑まれてしまう。

藍色の闇の中

（夕陽を浴び、）北から冷たい風が来て、ひゅうと鳴り、はんの木はほんとうに砕（くだ）けた鉄の鏡のようにかがやき、かちんかちんと葉と葉がすれあって音をたてたようにさえおもわれ

町々は、夜になると、ひっそりと暗い闇につつまれてしまう。 　古い京の町が、そのまま闇の中に息づいてい、細い道には車も人も通らず、人声も絶えてしまう。 　そこに私は、むかしの江戸の町の夜の姿を感じることができる。

お日様（ひさま）はもえる宝石（ほうせき）のように東（ひがし）の空（そら）にかかり、あらんかぎりのかがやきを悲（かな）しむ母親（ははおや）の木（き）と旅（たび）にでた子（こ）どもらとに投（な）げておやりなさいました。

夜になりきれない街の、オパールの夕景

マンションの一部屋の明りが点いたり、消えたり、締め忘れた水飲み場の蛇口から水滴が落ちたり、Ｋ君の髪先が風にゆらめいたりするくらいしか、風景の中で動いているものはなかった。ひそやかな夜の息遣いが、聞こえてきそうだった。