大きな川が横たわっている

流れ出てきた水が、うねりうねって、解きほぐした絹糸の束のようにつやつやしく、なほやかに揺れながら流れる

（夜の川の先に見える歓楽街の光）一直線につづいている夜の川の 彼方 の、道頓堀の光彩に見入った。川に光はなく、それは歓楽街に伸びて行く底深い一本の道に見えた。道は橋々をくぐって後方の、遠い高層ビルのほうにまでつづいて行く。 苔 や青みどろに 覆われた太い材木が浮かんでいたが、それも道に捨て置かれた黒い岩のようである。道の果てに四角いスクリーンがあって、そこにぽつんと七色の光が映し出されているのだった。

扇（おうぎ）形に開く河口

川は雨を集めて茶色く濁っていた。秋の太陽の下でそれはキラキラと光るカフェ・オ・レの放水路のように見えた。

何万匹とも数の知れない、薄羽かげろうの屍体だったのだ。隙間なく水の面を被っている、彼らのかさなりあった翅（はね）が、光にちぢれて油のような光彩を流している

砂浜をひた押しに這い寄る霧が、突堤と海水を区切る線をも消す

猫が溺れるほどもない池の水

波の音や砂や、はるかな海や、中空にすっと光る雲。自分さえ白く光って空気に溶けていきそうに思えるこういう浜辺

岸へ押し寄せ押し寄せする潮が全世界をめぐる生命の脈搏のように、間をおいては響き砕けていた。