（深夜のパリのブラッスリー）攪（か）き廻（まわ）されて濃くなった部屋の空気は、サフランの花を踏み躙（にじ）ったような一種の甘い妖（あや）しい匂いに充（み）ち、肉体を気だるくさす代りに精神をしばしば不安に突き抜くほど鋭く閃（ひらめ）かせた。

におわずにはいられない

こっそりと忍び寄るようなしめやかな香り

雨上がりを連想させるしっとりした香り

彼女の感覚に新鮮な一種の匂いがその辺に滲みついていた。家具の艶出液（つやだしえき）のにおい、煙草、羊毛ともう一つ何か乾いた皮製のものから立つようなにおいが皆一つに溶けこんだ、男ばかりの住居らしい匂いだ。

あたり一面に夜気で凍りついた木のにおいが立ち込めていた

部屋へ帰ると窓近い樫（かし）の木の花が重い匂いを部屋中にみなぎらせていました。

沈丁花や金木犀が忘れられない匂いをさせた

しつこいにおいを放っている

何という香ばしさ