なんという美妙な美しい色だ。冬はあすこまで遠のいて行ったのだ。そう思うと、不幸を突き抜けて幸福に出あった人のみが感ずる、あの過去に対する寛大な思い出が、ゆるやかに浜に立つ人の胸に流れこむ。

しのびやかに軽くくすぐるように、一日ずつ近づいてくる春

早春の陽を浴びて水がぬるむ

大きく息を吸うともう春の気配が感じられる。

冬も過ぎて、梅が咲き椿（つばき）が咲くようになった。太陽の生み出す慈愛の光を、地面は胸を張り広げて吸い込んでいる。

満開の桜が、うららの春霞の下で眠くなるような色合いで連なっている

空には雲ひとつない。それでいて全体がぼんやりとした春特有の不透明なヴェールに被われていた。その捉えどころのないヴェールの上から、空の青が少しずつ滲み込もうとしていた。日の光は細かな埃のように音も無く大気の中を降り、そして誰に気取られることもなく地表に積った。

しのびやかに軽くくすぐるように、一日ずつ近づいてくる春

もう四月が来ると云うのに、雪でも降りそうなこの寒い空

（夕方）街の上に黄を交えて澄みとおった春の空が開けている

枯れて枝だけをのばす街路樹。

雪解けで道があんこのようにこねこねしている

冬の後には春が来るのだ。

（船の）舳（へさき）が見え、厚く積った雪の両端から馬の首のように氷柱（つらら）を下げている。

街路樹の梢は、いつか靱（しな）やかな撓（たわ）みを持ち始めた。