たむろしていた風が、焚き火に吸い寄せられたように、庭の片隅から起ちはじめる

にはかに空のほうでヒィウと鳴って風が来ました。雪はまるで粉のやうにけむりのやうに舞ひあがり

（崖にぶら下がり中の風）風に揺られる。さっきまで頰に心地好かったその風が、悪魔の使いのように感じられる。

宵のうち人びとが掴（つか）まされたビラの類が不思議に街の一と所に吹き溜められて

草が、圧（おさ）えられたようにいっせいに頭を風下に倒す

風が（葉の落ちた）ケヤキの枝のあいだを、鋭い音を立てて抜けていった。絶望を知った人の歯の隙間から出て行く酷薄な息のように。

遠くの樹に風が黒く渡る。と、やがて眼近い夾竹桃（きょうちくとう）は深い夜のなかで揺れはじめる

理科室の水槽の磯臭いにおいを乗せた窓からの風

部屋に吹き込んでいた風が急にやみ、カーテンが下に垂れた。作業の途中で何か大事な案件をふと思い出した人のように。それから少しあって、気を取り直したように再びゆっくりと風が吹き始めた。

前後左右に吹きめぐる風