漆のような真黒な羽のひらひらする、繊（ほそ）く青い、たしか河原蜻蛉（かわらとんぼ）とも言った

夕空に舞い狂う赤とんぼの色。

朱ザヤのような照りのある、小がらの赤トンボ

（やんま）翡翠ひすい の大きな眼、黒と黄の段だら染め、細くひきしまった腰から尾への強い線、──みんな美しい。

稲の絨毯が燃え上がるように輝き、そのうえをトンボの群れが不規則な軌跡を描いて飛行する

プラットフォームを吹く風には既に秋の終りを思わせる冷ややかさがあった。

落莫とした秋

白い空の下、青々とした稲穂が進行方向とは逆になびく。

秋の陽がからんと、明るく映（さ）している

稲の穂が重そうな首を止まず動かしてはさらさらと寂しく笑う

便器は、蓋をとると、蠅が勢いよく、胡麻を撒いたように舞い上った。

そのとき、耳元で 藪蚊 の羽音がした。

いなごの大群は山を越えてやってきた。はじめのうち、それは巨大な暗雲に見えた。次にぶうんという地鳴りがやってきた。

（たくさんなカジカガエルが鳴いて求愛する）一匹の雄（おす）がいた。そして彼もやはりその合唱の波のなかに漂いながら、ある間（ま）をおいては彼の喉（のど）を震わせていたのである。私は彼の相手がどこにいるのだろうかと捜して見た。流れを距（へだ）てて一尺ばかり離れた石の蔭（かげ）におとなしく控えている一匹がいる。どうもそれらしい。しばらく見ているうちに私はそれが雄の鳴くたびに「ゲ・ゲ」と満足気な声で受け答えをするのを発見した。そのうちに雄の声はだんだん冴えて来た。ひたむきに鳴くのが私の胸へも応（こた）えるほどになって来た。しばらくすると彼はまた突然に合唱のリズムを紊（みだ）しはじめた。鳴く間がたんだん迫って来たのである。もちろん雌は「ゲ・ゲ」とうなずいている。しかしこれは声の振わないせいか雄の熱情的なのに比べて少し呑気（のんき）に見える。

つくつく君（くん）は悲鳴を揚げて、薄い透明な羽根を縦横無尽に振う。