（冬の蔦は）縒れ戻る枝や蔓枝だけが残り、原始時代の大匍足類の神経か骨が渇化して跡をとどめているようで

ぽちぽちと紅色（べにいろ）の新芽が、無数に蔦の蔓（つる）から生えていた。それは爬虫類（はちゅうるい）の掌のようでもあれば、吹きつけた火の粉のようでもある。

門の裏側の若蔦の群は《…略…》大きくうねりを見せて動いている潮のようでもある。

門の裏側の若蔦の群は扉を横匍いに匍い進み、崎（みさき）と崎にせかれて、その間に干潮を急ぐ海流の形のようでもあり

（イギリス風の住宅建築は）建築当初は武蔵野の田畑の青味に対照して、けばけばしく見え、それが却（かえ）ってこの棲家を孤独な淋しい普請のようにも見させたが、武蔵野の土から生えた蔦が次第にくすみ行く赤煉瓦の壁を取り巻き、平地の草の色をこの棲家の上にも配色すると、大地に根を下ろした大巌（おおいわ）のように一種の威容を見せて来た。

筒状の花びらのすぼんだ付け根に口を当て、僅かに甘い蜜を吸う

木が囁くような葉音を立てる

武蔵野の寒い風の盛んに吹く日で裏の古樹には潮の鳴るような音が凄じく聞えた。

白い小さな、細かい花が大きな壺に投げこまれている。

箸置きと同じ長さのキュウリがあり、柔らかい花をつけていた。鮮やかな、水をはじく黄色だった。