稲田が秋風に吹かれてさらさら動く声に、耳傾けては胸を轟かせた

冬がすぐそこまできているというのに、ただゆっくり道を歩いているだけで汗ばんでくるような小春日和

秋の日足の短さ

風に吹かれて私は秋だわ、と思った。

素袷（すあわせ）の肌ごこちや、女あそびを思わせる初秋の風

（落葉の上を歩く）足を動かすたびに、落葉が乾いた音をたてた。《…略…》そのあとわたしたちは、ほとんど何も喋らずにただ落葉を鳴らしていた。

峡谷（たにあい）の山村に、春が過ぎ夏が過ぎ、山そのものが色絵錦（いろえにしき）の陶器（すえもの）のような秋になった。

九月も終りに近づいた頃だった。その日は朝から晩まで雨が降りつづいていた。その季節によく降るような細くてやわらかで単調な雨だった。そんな雨が地表に焼きついた夏の記憶を少しずつ洗い流していくのだ。全ての記憶は溝を伝って下水道や川へと流れこみ、暗く深い海へと運ばれていく。

小気味よく晴れ上がった秋の一日

九月の雨が、木の葉を黄ばませるより先に腐らせるかと思うほど降り続く