こちらの自分は月のような位置からその自分を眺めている。

自分の置かれている状況を上から眺めている感覚

自分を遠くから見ている感じだった。

カメラはいくぶん上方から広い店内を広角レンズで捉えていた

蟻の巣の中身は、中にいる蟻より、外から眺める人間の方がよく見える

目つきがそもそもおかしかった。

自分は自分の自由を享楽していることであろう。伸子には、夫をつれて来て、この悦びや鮮やかな自然の印象を分ちたい気持が起らなかった。彼女の気持は逆であった。彼女は、この山々を、この矮樹林を、自分だけで眺められるからこそ、嬉しいのであった。傍から誰にも妨げられず、心全面で眺め、味い、感覚する、この快さこそ、実に彼女に、久しく失っていた自由の蘇生を感じさせるものなのであった。

人生とは何かがわかっている

ばたばたと変わる場面として次々に浮かんだ。

父の言葉が彼の頭の中をちらと走り過ぎた。しかし彼は頭を左右に振ってこれらの言葉や姿を自分の心から振い落すようにしながら、親父の方に近寄って行った。