「コクがある」のは酒飲みには迷惑な話であって、そんな酒は常用に適しない。コクがなくてさらりとした味に、清い香気と色こそが一番大切であると思う。

コップの残りをぐびっとあけて、火のような息を吐く。

外は凍りつくような寒夜である。 （こういうときには、ぜひとも蕎麦を食べなくては……） 　と、おもい、近くの浜町の〔藪〕へおもむき、鴨南ばんで熱い酒をのんだ。酒と蕎麦の味が、このような寒夜には、腸へしみとおるようにうまいものだ。

一口、ふくんでみる。口腔をピリピリさせたあと、酒は細い蛇のように食道をおりていく。《…略…》電熱コイルにスイッチがはいった感じで、胃の腑（ふ）と食道に、ぽっと灯が点る。

本醸造はキレがあってシャープ。旨みが広がっても後味はスパッと終わる。

ウイスキーをビンからがぶ飲みする

ダイキリのグラスにじっと視線を注いでいた。中の氷がとけて、その水が小さな海流のようにカクテルのすきまにもぐりこもうとしているのが見えた。

鈍い音がして栓が抜けると甘い香りが部屋じゅうにたち込めた。サユリは、底に溜ったおりが流れ出さないように、慎重にワインをグラスに注いだ。

ワイングラスが倒れる。水島は自分の膝のナプキンをとりあげ、大急ぎで隠そうとするように、テーブルクロスに広がる赤い染みを覆う。

かなり飲んでいて、でも酔っぱらってはいなかった。