一心不乱に

しだいに、周りの音が一切、耳に届かなくなった

（名作）作品を見るもののすべてを魔法の渦のように自分の世界にひきずりこむのです。

頁を開き、一つ二つ文を読めば、すぐに小説の世界に溶け込むことができた。

死に物狂いで走る馬車馬のように周囲が見えていない

（山から見下ろした夜明けの風景）中の海のむこうから海へ突き出した連山の頂が色づくと、美保の関の白い燈台も陽を受け、はっきりと浮び出した。間もなく、中の海の 大根島 にも陽が当り、それが 赤あか 鱏えい を伏せたように平たく、大きく見えた。村々の電燈は消え、その代りに白い 烟 が所々に見え始めた。然し麓の村は未だ山の陰で、遠い所より 却って暗く、沈んでいた。謙作はふと、今見ている景色に、自分のいるこの大山がはっきりと影を映している事に気がついた。影の輪郭が中の海から陸へ上って来ると、米子の町が急に明るく見えだしたので初めて気付いたが、それは停止することなく、ちょうど 地じ 引網びきあみ のように 手繰たぐられて来た。地を 嘗なめて過ぎる雲の影にも似ていた。中国一の高山で、輪郭に張切った強い線を持つこの山の影を、そのまま、平地に眺められるのを 稀有 の事とし、それから謙作は或る感動を受けた。

舟の家が朝焼けの中で暗く沈んでいた。

暁の爽やかな薄明が東の空に星々のまどろみを消し去っていく

朝が、幕をあげるように、するすると明け放れる

夜は 殆ほと んど明け放れていた。

カーテンの隙間からは朝の光が 洩れていて、外の通りからは日常が始まろうとする音がしている。

和やかな朝の光に包まれる

太陽は向うの丘に隠れ、頂上に並んだ樹の間から、光線が 縞しま をなして 迸ほとばしった。空に残った雲だけ、まだ金色に光っていた。我々は 暫く光る雲に照されていた。

夜の街の空気が、未だに海のうねりのように肌に蘇って消えなかった。

もう夜が明けていた。カムサツカの連峰が金紫色に輝いて、海から二、三寸位の高さで、地平線を南に長く走っていた。小波（さざなみ）が立って、その一つ一つの面が、朝日を一つ一つうけて、夜明けらしく、寒々と光っていた。――それが入り乱れて砕け、入り交れて砕ける。その度にキラキラ、と光った。鴎の啼声が（何処（どこ）にいるのか分らずに）声だけしていた。――さわやかに、寒かった。

目を閉じて考える

矢に射られた鹿の群れは、原の上を狂い廻って地に倒れた。

意識は冷えた陶器にも似て覚醒していた。

大きなポスターが貼り出されていたからだ。 「なんだこりゃ」 　寝不足の頭に、その意味はワンテンポ遅れて染み込んでくる。

味噌汁の、砂が抜けきっていないあさりを噛みしめて、じゃりっときた時と同じ、ものすごい違和感