初心（うぶ）で臆病で内向性なの。自分でカラを作ってマイマイツブロみたように閉じこもる質なの。

二枚貝みたいに自分を閉ざしてしまう

相手の気持ちが、霧のように不透明

石のように閉ざした心

この男と一生連れそってゆくうちには、はがねのようにきたえられて、泣きも笑いもしない女に訓練されそうな気がして来る。

余計なことは考えないようにしようと牛河は思った。皮膚を厚くし、心の殻を固くし、日々をひとつまたひとつと規則正しく重ねていくのだ。俺はただの機械に過ぎない。有能で我慢強く無感覚な機械だ。一方の口から新しい時間を吸い込み、それを古い時間に換えてもう一方の口から吐き出す。存在すること、それ自体がその機械の存在事由なのだ。もう一度そのような混じりけのない純粋なサイクル――いつか終わりを迎えるであろう永久運動――に復帰しなくてはならない。彼は意志を堅くし、心の蓋を閉ざすことで、ふかえりのイメージを脳裏から追い払おうとした。

嘘に色があるのなら薔薇色の嘘をつきたい

偽作が秀れた美術批評家の眼を掠めて真物で通った例は、これまでも珍しくなかった。

（信頼させる）彼の仕事は、クリニックに入会することが決まった男たちの血圧や尿を調べ、健康診断書をあたえることだった。神妙にこの儀式を受けると、植毛クリニックに対する信頼はぐっと深まるらしい。入会金二十万円をみんな即金で払っていく。

バカバカしい嘘