ハワイ島で昔おそろしいことがあった場所に行くと、ふっと血の匂いがする。そんなこととほとんど同じで、ある種の感受性がある人たちにはそれはまるで手に取るようにわかるものだ。

（あるほんとの運命的な出会い）ひら積みになった沢山の本の中で、ある分厚い本が私の目を引いた。 「哲学者の密室」笠井潔著……見たことも聞いたこともなく、普段私が読まない推理小説で、オマケにとにかく分厚い本で、手に取ってみたらずっしりと重かった。お金ももうなくて、それなのにどうして私はパンの本を 諦めてまでそれを買ったのだろう。 　それが運命というものだ。 　どうしても欲しい気がした。 　自分ではどこにあるかわからない、どうしようもなく遠くでも確実に触れるほど近い、ある部分が買え、買えと強く訴えるような感じがしたのだ。

（一目でわかる）何百回となく聴いて頭に叩きこまれたレコードの最初の一音を耳にしたときのように、僕は一瞬にしてすべてを理解することができた。

彼が 風呂 に入っているときなんの気なしに台所のワゴンの上を見たら１通の封書が目に止まった。 　ひとの手紙なんて見やしないし、まして女文字ではなかったのでどうしてまじまじと見てしまったのかわからない。 　でも何かひっかかる 宛名 の書きかただった。 　だから、反射的に中身を見てしまった。 　そんなことは生まれて初めてすることなのに、なぜか後ろめたさはなく、見なくてはという確信だけがあった。

悪魔の勘で嗅（か）ぎつけた

発明とは、世界に存在する隠れた法則を発見する行為そのもの

私は、驚かなかった。無意識の領域で予期していたような気がした。

ものごとがひとつに結びつき始めているという手応えがあった。点と点のあいだに線が一本ずつ引かれていく。少しずつ構図が見えてくる。

ある思いが閃光のように頭を掠める

湯槽（ゆぶね）のなかに眼を閉じていても、世間のうごきはおよそわかる――。