（デミグラスソース）洋食屋の扉を開けた瞬間、鼻をくすぐる特有のあの匂いは、思うに主として熱したラードとデミグラスソースの芳香が渾然一如となったものである。もうそれだけで腹の虫が鳴き、生唾が沸いてくる。

肉の下にはきまって赤黒いソースが敷いてある

その洋食の色合いよく、清潔に盛られた上品さと、下町の洋食にはない匂い。味は日本人の舌に合っている。

ベトナム料理は意地悪そうな容貌で、味も見たまま

〔たいめいけん〕の洋食には、よき時代の東京の、ゆたかな生活が温存されている。 　物質のゆたかさではない。 　そのころの東京に住んでいた人びとの、心のゆたかさのことである。

（マクドナルド）鉄板の上には茶色い水玉模様のように肉が並び、ちりちりという音を立てていた。

炎のように赤く、真夏のように熱く、恋のように甘いロシアのスープ

牛肉の旨みが最大限に引き出された濃厚ハンバーグ

ぐつぐつぶつぶつ、テーブルの上にのってさえ、グラタン皿の中のクネルは、少し踊るように上下にゆれていた。

ドイツはじゃがいもの国といわれる。レストランに入って料理を注文すると、パンの代りにじゃがいもがでてきた。ゆでたじゃがいもにバタをまぶし、パセリをふっただけだが、実においしく、どんな料理にも勝るように思った。