二人のいる世界では、時が流れない。 橋本さんは川と小舟に譬えて話してくれた。川に浮かぶ小舟は、上流から下流へ、やがて海へと流されていく──それが、僕たちの生きている時間だ。橋本さんと健太くんの小舟は、五年前の事故で難破して、川の淀みに入ってしまった。海へ向かうことも、もちろん川をさかのぼることもできず、浮かぶでも沈むでもなく、ずっと同じ場所にある。
重松 清「流星ワゴン (講談社文庫)」に収録 ページ位置:0% 作品を確認(amazon)
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時間が止まったように虚しい日々
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前後の文章を含んだ引用
...... * 交通事故で亡くなった父親の名前は、橋本義明さんという。息子は、健太くん。 橋本さんも健太くんも、事故を起こした五年前と同じ年格好で、僕の前に現れた。二人のいる世界では、時が流れない。 橋本さんは川と小舟に譬えて話してくれた。川に浮かぶ小舟は、上流から下流へ、やがて海へと流されていく──それが、僕たちの生きている時間だ。橋本さんと健太くんの小舟は、五年前の事故で難破して、川の淀みに入ってしまった。海へ向かうことも、もちろん川をさかのぼることもできず、浮かぶでも沈むでもなく、ずっと同じ場所にある。そして、ときどき、淀みに迷い込んだ小舟と出会う。 僕たちはドライブをつづけたのだ。何日間、と数えることのできない、奇妙なドライブだった。 橋本さんの運転するワゴ......
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僕は朝七時に起きてコーヒーを淹れ、トーストを焼き、仕事にでかけ、外で夕食を取り、二杯か三杯酒を飲み、家に帰って一時間ばかりベッドの中で本を読み、電灯を消して眠った。土曜日と日曜日には仕事をするかわりに朝から何軒か映画館をまわって時間を潰した。そしていつもと同じように一人で夕食を取り、酒を飲み、本を読んで眠った。そんな風にして、ちょうどある種の人々がカレンダーの数字をひとつずつ黒く塗りつぶしていくように、僕は一ヵ月を生きてきた。
村上 春樹「羊をめぐる冒険」に収録 amazon
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