この男は見るからに、何をやってもまずうまく行かないというタイプだった。そういうタイプの標本みたいな男だった。まるで淡い青インクの溶液に一日漬けておいてから引っ張り上げたみたいに、彼の存在の隅から隅まで失敗と敗退と挫折の影が染みついていた。ガラスの箱に入れて、学校の理科室に置いておきたくなるような男だった。「何をやっても上手くいかない男」という札をつけて。

見るからに危険な男

俺は石の湿った裏側に蠢いている虫けらみたいな、じめじめした薄汚い存在かもしれない。

分厚い眼鏡をかけた、青白いもやし君

混み合った終電の中に、顔中血まみれのおれが乗り込んでいくと、見る見るうちにおれのまわりに空間ができる。遠巻きにして、こわごわながめられているのだ。　みんな、見て見ぬふりをして、そのくせ視界のはしっこに必ずおれをとらえている。

別人のように快活になって顔も生々して来た

いつもブスだが、その日は格別にブスだった。

握手した手をもう一回ぎゅっと握った

棖（ほこだち）の枝に、上顎（うわあご）をかけられた父と母との死体が魚のように下っている

不良少年がそのまま歳を取ったという風貌